技能実習生の給与はどのくらい支払えば良いか相場が分からない人事担当者は多いでしょう。
給与決定には法律を遵守し最低賃金以上の金額にする必要があります。しかし最低賃金が続くと、失踪や転職のリスクが生じてしまいます。
この記事では、技能実習生の給与決定のポイントや雇用に関する注意点を解説します。
これを読めばどのようにして技能実習生の給与決定をすれば良いのか、さらに、押さえておくべき注意点が分かります。

技能実習生の給与の相場は?
厚生労働省が調査・発表した「令和4年賃金構造基本統計調査の概況」によると、外国人労働者の賃金相場は下記の通りになっています。
在留資格区分 | 平均給与 |
---|---|
技能実習生 | 177,800円 |
外国人労働者計 | 248,400円 |
専門的・技術的分野(特定技能を除く) | 299,600円 |
特定技能 | 205,700円 |
身分に基づくもの | 280,700円 |
その他(特定活動および留学以外の資格外活動) | 220,900円 |
技能実習生は就労を目的としていませんが、他の外国人労働者の賃金と比べると低いことが分かります。
また、技能実習生と同年代にあたる25歳〜29歳の日本人の平均給与は、251,200円です。日本人と比較しても賃金が低いことが分かります。
技能実習生給与の押さえるべき3つのポイント
技能実習生の給与は、労働基準法や最低賃金法などの労働関係法令が適用されます。
受け入れ企業は、自由に賃金を決めることはできず、これらの法令を遵守し適正な給与支払いをしなくてはいけません。
ここでは押さえるべきポイントとして最低賃金・同一労働同一賃金・割増賃金について解説していきます。
最低賃金を守る
技能実習生の給与支払いにおいて押さえるポイントの1つ目は「最低賃金を守る」です。
最低賃金法によって、「最低賃金額以上の金額を支払わなければならない」と定められています。
最低賃金には、「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の2種類に分かれています。
地域別最低賃金とは、都道府県ごとに決められている最低賃金です。一方、特定(産業別)最低賃金とは、特定産業の業務に従事する者を対象に定められている最低賃金です。
企業は技能実習生の給与を決める際に、「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の確認を必ずおこなってください。もし「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の両方の最低賃金に該当する場合には、どちらか高い方の金額を適用しなくてはいけません。
仮に低い方の金額を適用し、支払いを行なった場合には最低賃金法違反に該当します。
最低賃金法違反になると、技能実習生の受け入れ停止になる可能性もあるので注意が必要です。
こちらでも詳しく解説しています。ご参考ください。

同一労働同一賃金を守る
技能実習生の給与支払いにおいて押さえるポイントの2つ目は「同一労働同一賃金を守る」です。
「同一労働同一賃金」とは一体何でしょうか。厚生労働省のホームページでは以下の通りに説明されています。
『同一労働同一賃金の導入は、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。』
(参考) 同一労働同一賃金特集ページ|厚生労働省
技能実習生は、有期雇用の非正規雇用労働者に該当します。
同じ業務に従事している正規雇用労働者と同等以上の給与の支払いをする必要があります。
技能実習生だから・非正規雇用だからといって不当に給与を低くすることは違反です。
こちらでも詳しく解説をしています。ご参考下さい。

割増賃金の支払い
技能実習生の給与支払いにおいて押さえるポイントの3つ目は「割増賃金の支払い」です。
割増賃金とは、所定の労働時間を超えて労働などを行った場合に、通常の賃金に上乗せして支払わなくてはならない賃金のことです。
日本人と同様に技能実習生へも割増賃金の支払いは必ず行います。
所定外の労働の種類 | 割増賃金率 |
---|---|
時間外労働 | 25% |
深夜時間(22時~5時) | 25% |
休日出勤・法定休日の労働 | 35% |
休日出勤の深夜時間 | 60% |
また、1か月の時間外労働が60時間を超える場合には、60時間以降の時間の割増賃金率は50%となります。
(参考) 割増賃金の計算方法|厚生労働省
受け入れ企業が技能実習生に内職などと称して時間外労働を行わせ、これに対しての支払い額が上記の割増賃金よりも低い場合、労働基準法違反となります。
また、基本的には、出入国管理及び難民認定法(入管法)上では 技能実習生に内職をさせることは認められていません。
給与支払時の5つの条件
技能実習生の給与支払の際には下記の5つの条件を守って支払いましょう。
- 毎月1回以上支払う
- 一定の期日を決めて支払う
- 通貨で支払う(同意があれば口座振込も可能)
- 直接支払う
- 給与の全額を支払う
基本的には日本人と同じように支払えば問題はなく、労使協定で決められている税金・保険料・寮費などは、給与から天引きできます。
しかし、外国人は給与天引きにあまり馴染みがありませんので、トラブルを防ぐために、事前に給与天引き内容について技能実習生へ説明しておくことをオススメします。
技能実習生の給与を決める注意点
技能実習生の給与は、最低賃金以上の支払いをすれば法律に抵触することはありませんが、その場合人材が集まらない可能性もあります。人材を確保する環境を整えることを意識していき、自社の業種や本人のスキルに合う給料設定を心がけましょう。
技能実習生を最低賃金で就労させることは可能ですが、給与が低いことにより起こるリスクもあります。
ここでは注意点として代表的な2つのリスクを紹介します。
失踪リスクがある
給与が低いことにより、失踪を誘発させる恐れはあります。
他の労働者と比較し業務と給与が見合わないと考えてしまい辞めたいという感情が芽生える可能性はあります。
転職リスクがある
失踪リスクと同様に転職を考える技能実習生も少なくはないでしょう。
技能実習生は転職が認められていませんが、実習期間を終え、即戦力となる特定技能へ移行後に高時給の企業へ転職する可能性があります。
3年間、もしくは5年間育て上げた技能実習生は、特定技能として十分戦力として活躍が期待できるはずです。
しかし最低賃金が続くようでは、特定技能のビザを取得した途端、好条件の他社への転職は免れないでしょう。
失踪や転職リスクを防ぐためには
最低賃金以上であれば法律には抵触しませんが、最低賃金が続くと失踪や転職リスクが生じます。
失踪や転職リスクを防ぐためには、昇給・賞与を与えることでモチベーションをアップさせることが重要です。
技能実習生を受け入れる際に補助金や助成金を受けることができます。
様々な補助金や助成金の種類があり、制度を受けるためにはそれぞれの条件を満たしている必要があります。
こちらで補助金・助成金の種類と条件をまとめていますのでご参考ください。

技能実習生の雇用に関する注意点3選
技能実習生の給与以外でも注意すべきことがあります。
ここではその中でも特に注意が必要な有給休暇・保険加入・36協定の3つについて解説していきます。
技能実習生の雇用に関する注意点3選①|有給休暇の付与
技能実習生も年次有給休暇が付与されます。
一般的な年次有給休暇の付与条件は、雇用開始から6カ月以上継続勤務および全労働日の8割以上出勤となっています。
さらに、週5日以上の勤務または所定労働時間が週30時間以上の条件を満たせば、継続して年次有給休暇を取得できます。
勤続勤務年数 | 付与日数 |
---|---|
6ヶ月 | 10日 |
1年6ヶ月 | 11日 |
2年6ヶ月 | 12日 |
年次有給休暇の取得は、年間5日間の取得が義務づけられています。
有給休暇の使用の申し出があった場合は、企業は断ることはできません。
しかし、業務状況により日程の変更は可能です。
技能実習生の雇用に関する注意点3選②|保険加入の義務
技能実習生も保険加入が義務づけられています。
加入義務の4つを紹介します。
◆国民健康保険・健康保険
病気やケガをしたときに適用される医療保険のことです。
技能実習生は、講習期間中は国民健康保険に加入し、講習機関が終わり配属されると受入れ企業の健康保険に切り替えます。
◆厚生年金保険
健康保険と同様に技能実習生は、講習期間中は国民年金に加入し、講習機関が終わり配属されると厚生年金保険に切り替えます。
厚生年金保険料には、国民年金保険料が含まれており、その保険料は雇用主と折半になります。
また国民年金の加入期間中は、無収入期間のため、支払免除申請ができます。
◆介護保険
45歳から加入義務のある保険です。
健康保険・厚生年金保険・介護保険をまとめて社会保険といい、雇用主と折半で保険料を支払います。
◆雇用保険
失業したときに適用される保険です。
保険料は雇用主との折半になります。
◆労災保険
通勤・労働中のケガをしたときに適用される保険のことです。
保険料は全雇用主の負担になります。
この4つ以外にも自転車保険・外国人技能実習生総合保険など保険加入すべきものはあるので、サポート面でしっかりと確認しましょう。
技能実習生の雇用に関する注意点3選③|36協定の適用
技能実習生に対しても法定労働時間を超えて働かせる場合は、36協定を締結し労働基準監督署へ届出をしなくてはいけません。
36協定とは、労働基準法で定められている労使協定です。
36協定締結後は、時間外労働の上限が原則月45時間、年360時間になります。
上限を超えて労働をさせないよう、日々の勤怠管理はしっかりと行う必要があります。
まとめ
技能実習生の給与相場は177,800円で、技能実習生の給与は最低賃金以上であれば法律に抵触はしません。また、最低賃金を守るだけではなく、同一労働制度や割増賃金についても注意が必要です。
しかし、最低賃金が続くと技能実習生の失踪や転職リスクが生じてしまいます。
リスクを防ぐためには、昇給・賞与を与えてモチベーションを維持・アップさせることが重要です。
法律違反にならないような給与決定をおこないながら、技能実習生の採用を検討してみてください。
