こちらの記事では外国人を採用しようと考えている法人の方向けに、外国人採用時に伝えなければならない給与関係のこと、給料支払い時に気を付けるべきこと、外国人と給与面でトラブルになった場合まで徹底解説しています。この記事を読むことで、外国人への給料についての一通りが理解できます。

そもそも外国人に払う給与は日本人と同じ?
外国人と日本人に支払う賃金や手当は同じです。
日本の労働法により、労働者の職種や賃金に関する法的な規定が設けられており、これは日本国籍を持つ労働者にも外国籍を持つ労働者にも適用されます。また、労働法には、職種に応じた適正な賃金水準が明記されており、労働者の能力、責任、勤務条件などに基づいて賃金が決定されます。
このため、外国人労働者にも同じ賃金が支払われるべきですが、外国人であるが故に不当に低賃金が設定されたり、給与が停滞したりする問題が未だに存在しています。
厚生労働省が2021年に公表した「技能実習生の監督指導および違反事例に関する報告」によれば、2021年に監督指導を受けた外国人技能実習生を雇用する事業場のうち、6,556事業場中72.6%で労働基準関係法令の違反が見られました。
(参考)外国人技能実習生の実習実施者に対する令和3年の監督指導、送検等の状況を公表します|厚生労働省
最低賃金について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。


外国人労働者を適切な給料で雇うメリット3選
そもそも、最低賃金を下回る低賃金で外国人労働者を雇用してはいけないのですが、ここからは、適切な給料設定をすることで得られる主なメリットを3つ紹介します。
①外国人労働者による生産性向上
外国人労働者に適正な給与を提供することは、彼らの生産性を向上させる鍵です。適正な報酬を受け取ることで、彼らは真剣に仕事に取り組み、高品質な成果を生み出す意欲を高めることができます。逆に、低い報酬を受け取る場合、彼らは不満を抱き、労働へのモチベーションが低下し、生産性が損なわれる可能性があります。
②外国人労働者の定着率向上
適正な給与を提供することで、外国人労働者は企業に長期間留まる意欲が高まります。外国人労働者が定着すれば、その知識と経験を生かして企業に貢献できるでしょう。また、彼らはスキル向上のためにトレーニングや研修に積極的に参加できるでしょう。これにより、企業の成長に寄与できます。
外国人労働者の離職率を下げ、定着率を向上させたい企業に関連する記事はこちらをご覧ください。

③外国人労働者からの良い評判
適正な給与を提供することで、外国人労働者は企業からの高評価を広めることができます。外国人労働者の評判は、他の外国人労働者にとって貴重な情報源となります。高い評判を持つ企業は、優秀な外国人労働者を引き寄せ、企業の成長や国際化に寄与するでしょう。
以上のように、外国人労働者に適正な報酬を提供することは、企業と労働者の両方にとってメリットがあることが分かります。企業は、適正な報酬を通じて労働環境を向上させ、生産性を高め、労働者の長期雇用の定着率を高めることができます。また、優れた外国人労働者を採用し、企業の成長と国際化に貢献できるでしょう。それでは、外国人労働者を雇用する際に留意すべき注意事項を詳しく解説していきます。
外国人労働者の給与と源泉徴収(源泉所得税)
外国人雇用における源泉所得税の処理について、どのようになるのでしょうか?
日本国内で1年以上継続して居住し働く外国人は、通常の日本国民と同じように、源泉徴収税額表に基づいて源泉徴収が行われ、その税率は原則として20.42%です。外国人労働者に報酬を支払う際には、所得税(復興特別所得税を含む)の源泉徴収と住民税の特別徴収が必要です。
外国人に給与を支払う場合、源泉所得税の徴収方法は、その外国人が居住者か非居住者かによって異なります。
外国人が居住者に該当する場合、給与所得の源泉徴収税額表に基づいて源泉所得税を差し引き、年末調整によって年間の税額を精算します。これは、日本国民と同じ処理です。
一方、外国人が非居住者に該当する場合、原則として20.42%の税率で源泉徴収が行われ、これによって所得税の課税手続きは終了します。ただし、外国人が自国と日本との間で租税条約を締結している場合、その租税条約に基づいて免税の可能性があるため、関連する届出書を提出することで免税措置を受けることができます。
また、外国人労働者が退職し出国する場合、納税管理人への届出などが必要な場合があります。
居住者と非居住者の区分について
居住者
「居住者」とは、国内に住所を有するか、または、現在まで1年以上連続して居所を持つ個人を指します。住所とは、生活の本拠地であり、職業、家族、資産の所在などの客観的な要因によって判断されます。
「居所」とは、生活の本拠地ではなく、個人が実際に居住している場所を指します。
所得税法においては、国内で1年以上連続して居住することが通常必要とされ、職業に関連した国内滞在がある場合、当該個人は国内に住所を有するものと見なされます。また、事業を営むか、職業に就くために国内に居住する場合、通常は1年未満の滞在でも、国内に住所を有するものと見なされます。
非永住者以外の居住者は、居住者の中で非永住者でない方を指します。非永住者は、日本国籍を持たず、過去10年以内に国内に住所または居所を持つ期間の合計が5年以下の方を指します。
非居住者
「非居住者」とは、居住者以外の個人を指します。
租税条約の適用
非居住者に該当する場合、通常は20.42%の税率で源泉所得税が徴収されますが、非居住者の本国と日本との間に租税条約が締結されている場合、源泉所得税が減免されることがあります。
国際的な租税条約のひな形であるOECD改訂モデル条約では、「短期滞在者免税」として以下の3つの要件が規定されています。日本が締結した租税条約も、原則としてこれに従いますが、滞在日数基準の計算方法は異なるため、各締約国の租税条約を個別に確認する必要があります。
1. 滞在期間が課税年度を通じて183日を超えないこと
2. 給与を支払う者が、勤務が行われた国の居住者でないこと
3. 給与などの報酬が役務提供地にある支店や恒久施設によって負担されていないこと
租税条約の適用を受ける場合、非居住者は、給与支払者(源泉徴収義務者)を通じて、給与支払いの前日までに、租税条約に関する届出書を所轄税務署に提出する必要があります。
給与面における面接・採用時の注意点
前述の通り、日本人労働者と外国人労働者は賃金や手当の支給に関して同じ待遇を受けます。ただし、外国人労働者が日本の給与に関する用語や制度を理解していない可能性がある点に留意する必要があります。
最良の解決策は、給与に関する用語を相手の母国語で説明することです。
以下は、外国人向けに給与に関する用語を言語別にまとめたものですので、参考にしてください。
給与用語集
日本語 | 最低賃金 | 残業手当 | 賞与 | 給与前払い |
中国語 | 最低工资 (zuìdī gōngzī) | 加班费 (jiābān fèi) | 奖金 (jiǎngjīn) | 预支薪水 (yùzhī xīnshuǐ) |
韓国語 | 최저임금 (choejeoimgum) | 연장 수당 (yeonjang sudang) | 상여금 (sangyeogeum) | 급여 선불 (geupyeo seonbul) |
ベトナム語 | lương tối thiểu | tiền làm thêm giờ | tiền thưởng | trả trước tiền lương |
英語 | minimum wage | overtime pay | bonus | advance payment of salary |
ポルトガル語 | salário mínimo | horas extras | bônus | pagamento adiantado do salário |
外国人労働者への給与の支払い方法は、基本的に銀行振り込み
外国人労働者への給与支払い方法は、基本的には銀行振り込みが一般的です。外国人労働者に対する給与支払いは、通常の日本人従業員と同様に、銀行振り込みを行うことが一般的で問題ありません。銀行振り込みを行う際には、支払先の銀行口座番号、氏名、住所などが必要です。従って、日本人従業員と同じ手続きを行えば良いでしょう。
ただし、外国人労働者の中には、出身国によって支払い方法が異なる場合もあります。支払いが現金で行われる場合や、支払いサイクルが月2回など、様々なパターンが存在します。そのため、給与の支払い方法や支払いサイクルについては、明確に説明することが重要です。
現金支払いを行う場合は、給与明細書や領収書を提供して、支払いの証拠とすることが一般的です。


外国人労働者と給与トラブル時の事例と対処法
外国人労働者と雇用している企業の間で給与に関連する問題が発生した場合の対処法を紹介します。
企業による給与未払い問題
2022年12月にNHKが報じた『外国人技能実習生からの相談が2万件超』の記事によれば、外国人技能実習生からの相談が急増し、賃金未払いや不当解雇などの深刻な問題が浮き彫りになっています。技能実習制度は、主に発展途上国の労働者育成を目的としていますが、昨年度だけで2万3000件以上の相談が寄せられました。この問題に対処するため、外国人技能実習機構は昨年度2万3701件の相談を受けました。
具体的な相談内容を見てみると、「管理に関すること」が3,967件で最も多く、次いで「賃金・時間外労働などの労働条件に関すること」が3,877件、「途中帰国に関すること」が3,002件などとなっています。これらの相談は急増傾向で、昨年度は前年比1.8倍、2019年度に比べて3.2倍に増加しました。
(参考)賃金未払い不当解雇など 外国人技能実習生からの相談 2万件超 | NHK | 技能実習生
外国人労働者と企業の給与トラブルを防ぐために
前述の企業による外国人労働者への未払い給与は、企業に責任がある問題です。しかし、給与トラブルは他にも「支払いサイクル」「額面給与と手取り給与の違い」「支払方法」など様々な形で発生します。
外国人労働者の出身国によって、これらの問題は大きく異なることがあります。したがって、一般的な日本の給与に関する情報を提供することが重要です。
給与トラブルが起きた時の対処法
①法的規定と契約書の確認
給与トラブルの発生時、まずは日本の労働法と雇用契約書を詳しく確認しましょう。特に、労働時間、休暇、残業手当、ボーナス、退職金など給与に関する事項を再度確認し、問題の原因を明らかにします。
②労働組合への連絡
労働組合に所属している場合、トラブルの解決に向けて労働組合に連絡することも考慮しましょう。労働組合は従業員の権利を保護し、トラブル解決に協力してくれるでしょう。
③労働基準監督署への相談
日本には労働基準監督署が存在し、労働法に違反する企業に対して指導や是正勧告を行います。労働基準監督署に相談することで、問題の解決に向けた支援を受けることができます。
給与トラブルの解決は具体的な状況に応じて異なりますが、上記の手順に従うことで、問題のスムーズな解決が可能となります。また、外国人労働者がトラブルに巻き込まれるリスクを軽減するために、雇用契約書の翻訳や労働法に関する研修を実施することも重要です。

まとめ
こちらの記事では外国人に支払う給与について詳しく解説いたしました。雇用をするうえで給与は切っても切れない存在です。日本人労働者だけでなく外国人労働者における給与についても詳しく理解し、適切に給与を支払うことは会社にとっても日本にとっても長期的にプラスになることに違いないでしょう。
