時代の移り変わりの中で、外国人労働者を積極的に採用する企業が増えています。製造を始めとした数多く存在する業種で、需要が右肩上がりに伸びていると言われているのが物流業界です。荷物の管理や配送を主な仕事とする物流業界で、外国人を積極的に採用することは、労働者はもちろん、雇う側の企業にも数多くのメリットがあります。

物流業界の現状
物流業界の市場規模は現在、約20兆円と評価されています。矢野経済研究所による業界マーケット調査によれば、2019年から市場規模は毎年20兆円を下回ることなく拡大し続けています。
具体的なデータは以下の通りです。

(引用)物流17業種市場に関する調査を実施(2023年) | ニュース・トピックス | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所
物流業界の目を引く事実は、2020年に世界的な問題となった新型コロナウイルスの流行により、”おうち時間”の増加がもたらされ、ECサイトを中心とした物流需要が急増していることです。現在もコロナウイルスの影響が続く中で、ECサイトやオンラインサービスを活用して買い物をすることが日常化しており、物流業界の市場規模は今後も拡大が見込まれます。
さらに、インターネットサービスの拡大に伴い、宅配便の取り扱い個数も増加しています。新型コロナウイルスに伴う”自粛”ムードの広がりが、ECサイトの需要増加を後押しし、リモートワークやオンライン取引の増加により、日用品だけでなく食事の宅配サービスも増加しました。また、フリマアプリやハンドメイド商品の売買などの”副業”が一般的になり、個人間での宅配便利用も増加傾向にあります。これらのインターネットサービスの普及が、物流業界の現状に大きな影響を与えています。
物流業界の7つの課題
物流業界の現状の市場規模や市場ニーズの変化をご理解いただいたうえで、物流業界が抱える7つの課題を紹介します。
①人手不足
現在の物流業界では、労働者不足が深刻な問題です。需要の急増に対して、十分な数の労働者を確保できていないため、労働者一人当たりの業務負担が増加しています。
特に、配送ドライバーの不足が目立ち、ドライバー一人あたりの日配送回数が増え、長時間労働や適切な休息時間の確保が難しくなっています。少子高齢化の影響もあり、新しい労働者を確保することが難しく、将来的には人手不足が一層悪化する可能性が高いです。
この人手不足の解決策として一番注目が集まっているのが外国人雇用です。

②労働環境の悪化
物流業界で提供されるサービスの利用が増加する一方で、労働者の労働環境は悪化しています。例えば、長時間労働や深夜労働が増え、休息時間が不足しています。
また、顧客への便益を提供するために、業界内で労働者が重労働を強いられており、これが健康や生活品質に悪影響を及ぼしています。さらに、配送ドライバーの平均年齢が上昇しており、これからの数年間でドライバー不足が悪化する可能性があります。
③配送スピードの迅速化
現代の消費者は即座の配送を期待しており、物流業界はこの要求に対応する必要があります。例えば、翌日配送や指定日配達が一般的になりました。
これにより、物流企業は在庫の効果的な管理や効率的なルート計画を迅速に実施する必要があります。このために、新しい技術や運送プロセスの最適化が求められています。
④再配達の負担
再配達は、物流業界における大きな負担です。顧客の不在や住所の記載ミスにより、商品の再配送が頻繁に発生します。
再配達は労力と時間を無駄にするだけでなく、コストもかかります。また、受け取る側からすれば何度でも再配達を依頼できるため、負担が一方的に物流企業にかかります。
⑤燃料費の高騰
燃料費の高騰は経済的な課題です。石油価格の上昇やエネルギー供給の変動により、物流業界の運送コストが増加しています。
これにより、業界全体の収益性が圧迫され、経営コストが上昇しています。燃料費のコントロールと持続可能なエネルギー源の採用が重要です。
⑥時間外労働の割増賃金率の引き上げ
2023年4月から労働基準法の改正により、時間外労働の割増賃金率が引き上げられました。これにより、労働者の負担と企業の経営コストが増加しました。
企業は、時間外労働の適切な管理と効率化を図る必要があります。
⑦2024年問題への対応
物流業界における「2024年問題」は、時間外労働の上限規制が導入されることにより生じる課題です。ドライバーの労働時間制限が影響を及ぼし、業界全体の課題となります。
業界は、これに対応するために労働時間の効率化、ドライバーの採用などの対策を講じる必要があります。

物流業界で外国人雇用に注目が集まる理由
先ほど述べた7つの課題のうち、「①人手不足」と「⑦2024年問題への対応」の2つの課題を解決する方法として注目が集まっているのが、外国人雇用です。
物流業界で外国人を雇用することの3つのメリット
外国人労働者の採用は、「①人手不足の緩和」、「②労働条件の改善」、「③多文化環境の形成とグローバルな事業展開」など、物流業界において多くの戦略的なメリットを日本企業にもたらします。ここでは、主な3つのメリットを紹介します。
外国人雇用の一般的なメリットについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

①人手不足の緩和
外国人労働者を雇用することは、日本の物流業界に多くの利点をもたらします。まず第一に、人手不足の緩和が挙げられます。現在、日本の物流業界は人手不足に直面しており、増加する物流需要に迅速に対応するために労働力を確保する必要があります。外国人労働者の採用により、需要に柔軟に対応でき、業務の効率性が向上し、顧客へのサービス提供が円滑に行えます。
②労働条件の改善
第二に、労働条件の改善が考えられます。外国人労働者を引きつけるためには、競争が激しい人材市場で魅力的な労働条件を提供する必要があります。これにより、労働環境の向上や福利厚生の充実が実現し、従業員の満足度が向上します。
③多文化環境の形成とグローバルな事業展開
最後に、外国人労働者の採用によるメリットとして、多文化環境の形成とグローバルな事業展開が挙げられます。外国人労働者の多様なバックグラウンドと経験は、多文化環境を築き、異なる文化やアイディアを持つ労働者が協力する機会を提供します。これにより、問題解決力やクリエイティビティが向上し、企業文化が豊かになります。また、国際的な市場でのビジネス拡大や海外顧客への対応において、外国人労働者の専門知識が貴重なサポートとなります。
物流業界で働く外国人の主な仕事内容
ここでは、物流業界で働く外国人の主な仕事内容の「①倉庫内作業」と「②配送ドライバー」の2つの業務について詳しく紹介します。
①倉庫内作業
ここでは、物流業界で働く外国人の主な仕事内容の「①倉庫内作業」と「②配送ドライバー」の2つの業務について詳しく紹介します。
倉庫内業務の作業員は、外部から持ち込まれた荷物を指定の場所に配置し、依頼があれば配送トラックに積み込むことが主な仕事です。フォークリフトを使用してトラックへの積み込みを行う場合もありますが、ほとんどの場合は人力に頼ります。この仕事は専門的な知識や技術を必要とせず、年齢や経験に関係なく幅広く採用できるのが特長です。勤務中に同じ会社で働く従業員と接触する機会はほとんどなく、最低限の日本語コミュニケーションが可能であれば就業が可能です。
②配送ドライバー
倉庫内作業と並ぶ、物流業界の代表的な職種が配送ドライバーです。配送ドライバーは、会社が所有する専用トラックを運転し、指定された目的地に荷物を運ぶことが主な仕事です。日本ではトラックごとに運転免許証が必要とされるため、資格のない人を雇う場合、運転免許証の取得が必要です。免許の取得には数十万円近い費用がかかるため、外国人労働者にとって敷居が高い場合もあります。
効率的に人材を確保するためには、会社側が費用を負担するなど、応募しやすい環境を整えることが重要です。配送ドライバーは、目的地への荷物の配達だけでなく、配送先で取引先企業の担当者や個人の顧客への荷物の引き渡しも行います。日本語を使用したコミュニケーションが基本となるため、運転技術と共に語学力も習得させる必要があります。

物流業界雇用可能な外国人の在留資格(ビザ)
①永定配(永住者・定住者・配偶者)
在留資格「永定配(永住者・定住者・配偶者)」には、身分や地位に基づくものが4つあり、その特徴は、制約のない活動が可能な点です。このビザを持つ外国人ドライバーの数も比較的多いです。
具体的には、次の4つの在留資格があります。
- 「永住者」
- 「日本人の配偶者等」
- 「永住者の配偶者等」
- 「定住者」
これらの在留資格に関して、基本的にどの職種でも活動が可能です。そのため、企業にとっては貴重な労働力となります。
また、日系の2世および3世については、「日本人の配偶者等」または「定住者」として在留する場合には、国籍にかかわらず就労活動に制限はありません。



②特定技能
特定技能ビザは、外国人労働者の受け入れを促進するために2019年に導入された制度です。特定技能ビザでは、日本語要件として日本語能力試験N4以上、または国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)A2レベル程度の結果、技能要件として各分野・業務区分で設置された技能試験への合格が必要です。
ドライバーにも適用されるため、特定技能ビザを保持している外国人ドライバーの数は増加しています。


②留学
留学ビザを持つ外国人学生が、アルバイトとしてドライバーを務めることができます。在留資格の1つである「留学」とは、日本の大学、短期大学、専門学校、日本語教育機関などで学ぶために必要な在留資格です。



外国人を雇用する上での注意点
物流業界で外国人労働者を採用するに当たって、事前に済ませておく作業の一つが就労可否の確認です。日本で外国人が仕事をするには在留、就労など複数の資格を取得していることが条件となります。
一つでも要件を満たしていないと、労働基準法違反に抵触して当事者だけでなく、会社側も処罰の対象となるので注意が必要です。正規の手続きを踏まずに不法に入国していたり、ビザが切れている状態で求人に応募をしてくる人も少なくありません。雇用契約を交わす前に、就労条件を満たしているかを確認しておくことが基本です。
外国人労働者を採用する上で、異文化への理解も重要なポイントになります。仕事に対する考え方は国によって様々です。ストレートに物を言うことが当たり前の文化もあれば、体面を気にして人前で叱責されることを嫌う国もあります。採用後に従業員同士で揉め事を起こさないかを見極めることも忘れてはいけません。

