働き方の多様化が進む中、「デジタルノマド」として国境を越えて活躍する外国人が注目されています。
日本政府も観光庁を中心に誘致を本格化し、2024年4月には新たな在留資格も施行されました。
これは外国人労働者受け入れにおいて、特定技能とは異なる高度スキル人材獲得の新しい動きとも言えます。
本記事では、デジタルノマド誘致の最新動向と企業の採用戦略への影響、そして今後の国際的な人材獲得競争に備えるためのポイントを解説します。
注目される「デジタルノマド」とは?新しい働き方と日本への期待
「デジタルノマド」とは、特定のオフィスに縛られず、主にノートパソコンやインターネットなどの情報通信技術(IT)を活用して、国内外を移動しながらリモートで仕事をする人々のことを指します。
近年、働き方の価値観の変化やリモートワーク環境の急速な整備を背景に、世界的にその数が増加していると言われています。
日本が外国人デジタルノマドの誘致に力を入れる背景には、彼らがもたらす経済効果への期待があります。
デジタルノマドは比較的所得が高い層が多く、長期滞在による消費拡大や、地方を含めた新たな観光需要の創出が見込まれます。
さらに、デジタルノマドが持つ高度なスキルや国際的な視点が、日本のビジネスシーンに新しいアイディアやイノベーションをもたらすことも期待されています。
外国人デジタルノマド誘致への具体的な取り組み
日本政府は、外国人デジタルノマドの受け入れ環境整備に積極的に動き出しています。
観光庁の誘客戦略とモデル実証事業
観光庁は、外国人デジタルノマドの誘致を日本の観光戦略の新たな柱の一つと位置づけています。
デジタルノマドの誘客に先駆的に取り組むモデル実証事業として、石川県金沢市や長野県白馬村など全国5つの事業を選定しました。
これらの事業では、デジタルノマドの特性やニーズを踏まえた受け入れ体制の構築、魅力的な滞在プログラムの造成などが進められ、質の高い消費と投資を日本各地へ呼び込むことを目指しています。
このような取り組みは、日本の多様な地域の魅力を世界に発信し、外国人材との新たな接点を創出する試みと言えます。
参考:石川金沢や長野白馬、和歌山など5事業 観光庁、デジタルノマド誘客モデル実証事業を選定 | トラベルニュースat
デジタルノマド向けの新在留資格「特定活動」とは
外国人デジタルノマドの受け入れを法制度面から後押しするのが、2024年4月1日から施行された新しい在留資格「特定活動(デジタルノマド)」です。
この在留資格を取得するための主なポイントは以下の通りです。
- 対象者
外国の法令に準拠して設立された法人等との雇用契約に基づきリモートで業務に従事する者、または外国の者に対しリモートで役務提供等を行う個人事業主。 - 年収要件
個人の年収が1,000万円以上であること。 - 国籍要件
日本と査証免除取決め及び租税条約を締結している国・地域の国籍等を有していること。 - 滞在期間
最長6ヶ月(更新は認められません)。 - 保険加入
死亡・負傷・疾病に関する治療費用をカバーする民間医療保険(補償額1,000万円以上)への加入が必須。 - 活動の制限
日本国内の企業・個人と雇用契約や請負契約等を結んで就労することはできません。
この制度により、一定の要件を満たす高スキルな外国人材が、よりスムーズに日本に滞在し活動できる道が開かれました。
参考:在留資格「特定活動」(デジタルノマド(国際的なリモートワーク等を目的として本邦に滞在する者)及びその配偶者・子) | 出入国在留管理庁
特定技能だけではない外国人材活用の視点
現在、多くの企業にとって外国人労働者の受け入れと言えば、「特定技能」制度をイメージされるかもしれません。
しかし、デジタルノマドのような高度な専門性や国際的な経験を持つ外国人材の存在は、企業にとって新たな視点を与えてくれます。
デジタルノマドは日本の企業と直接雇用契約を結ぶわけではありませんが、日本国内に滞在し、地域のコミュニティやビジネスシーンと接点を持つことで、企業にとっても間接的なメリットが生まれる可能性があります。
例えば、海外の最新ビジネストレンドや新しい技術に関する情報を得る機会になったり、自社の製品やサービスを海外展開する際のヒントを得たり、あるいは、将来的に協業できるパートナーシップが見つかるきっかけになる可能性もあります。
激化する外国人材獲得競争と企業の備え
デジタルノマド誘致の動きは、単なる観光誘致に留まらず、国際的な「高度外国人材獲得競争」の一環と捉えることもできます。
少子高齢化が進む日本では、国内の労働力確保はもちろんのこと、高いスキルや専門知識を持つ外国人材の獲得が、企業の持続的な成長にとってますます重要になっています。
今後、このような高度スキルを持つ人材の獲得競争は、日本人材だけでなく外国人でも激化していくと考えられます。
その時、外国人材の採用や受け入れに関するノウハウ、多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍できる企業文化がなければ、競争に出遅れてしまう可能性があります。
デジタルノマドのような新しい外国人材の流れを他人事と捉えず、今から外国人採用に関する情報収集を進め、異文化理解を深め、多様な人材と共に働くための体制づくりを検討し始めることが、将来の大きなアドバンテージに繋がっていきます。
まとめ
外国人デジタルノマドの誘致に向けた日本政府の取り組みは、外国人材活用の新たなフェーズを示唆しています。
新しい在留資格の創設や観光庁のモデル事業は、高スキルを持つ外国人材が日本で活動しやすい環境を整え、地域経済の活性化やイノベーション創出を目指すものです。
「特定技能」だけでなく、より多様な形で外国人材と関わる可能性を探ることが、今後の人材戦略において重要になっていくと考えられます。
