本記事では、特定技能「介護」について詳しく解説します。2019年に施行されて以降、取得者数が増え続けている特定技能「介護」とはどのような在留資格なのでしょうか?特定技能「介護」を受け入れるための条件や業務内容から、受け入れるメリット・デメリットまで解説します。また、受け入れ方法やその他の介護系統の在留資格との違いにも触れています。

特定技能とは?
そもそも特定技能とはどのような制度でしょうか?特定技能には「介護」以外にも「建設」、「造船・舶用工業」、「飲食料品製造」など合計12分野(14業種)あります。国内人材を確保することが難しい分野において、専門的な知識や技能を持った外国人を受け入れることが目的です。特定技能に関してはこちらの記事で詳しく解説していますので、ご覧ください。

特定技能「介護」の概要
特定技能「介護」の具体的な内容について詳しく知る前に、まずは特定技能「介護」とはどのようなものかを施行された背景とともに説明していきます。
特定技能「介護」とは?
特定技能「介護」とは外国人労働者が介護の分野で働くことを認めるための制度です。
特定技能「介護」で可能な業務内容は幅広く、在留できる期間は最長5年まで可能です。
そのため、人材不足に陥っている医療・介護業界において現在注目されている在留資格の一つ
です。

特定技能「介護」ができた背景
特定技能「介護」が施行された理由には、日本の介護業界における人材不足問題が関係しています。以下のグラフにもあるように、介護業界での人材不足は深刻で2025年には約55万人が不足するといわれています。

(参考):ニッセイ基礎研究所「20年を迎えた介護保険の再考(20)人材確保問題-制度の制約条件となりつつある人手不足」
人手不足を解決するための1つの施策として、特定技能「介護」が介護業界に導入されました。日本における外国人労働者の人口も年々増加しており、外国人労働者の受け入れは介護業界だけではなく日本全体の労働人口不足問題を解決する方法として注目されています。

特定技能「介護」の現状
2019年に施行されて以来、特定技能「介護」はどのように利用されているのでしょうか。利用者数の推移やどの国の外国人が多く資格を有しているのかなどについて解説します。
特定技能「介護」の推移
年々増加傾向にある特定技能「介護」の利用者数は2023年6月時点で17,066人にものぼります。また、以下のグラフからもわかるように、2021年12月から2023年12月までの約1年で約311%増加しています。特定技能「介護」に次いで利用者が多い在留資格である「技能実習」の利用者は15,011人(※2022年6月末時点)なので、特定技能「介護」は介護業界において外国人を受け入れる際の主流な在留資格であるといえます。

(参考):厚生労働省「介護分野の特定技能外国人在留者数の推移」
また、その他の12分野(14業種)の特定技能と比べても「飲食料品製造業」の利用者数53,282人、「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」の利用者数35,641人に次いで、3番目に利用者数が多い在留資格です。
特定技能「介護」国別合格者数
特定技能「介護」における国別の利用者人口は以下のグラフのようになっています。一番多いのはベトナム人で特定技能「介護」を利用する外国人のうち約3割を占めています。やはりアジア圏の人材が多く、母国で働くよりも多い収入を得られることが要因だと考えられます。

特定技能2号に移行されなかった「介護」
特定技能には1号と2号の2種類があります。その主な違いは就労可能な期間です。1号は上限が5年であるのに対して、2号の場合は上限がありません。、また、令和5年から、以前「特定技能1号」のみだった9分野(ビルクリーニング、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業)が新たに特定技能2号の対象に移行となりました。唯一、特定技能「介護」が特定技能2号への拡大がされなかった理由としては、既に上限なしで労働可能な在留資格「介護」という制度が存在しているためだとされています。

特定技能「介護」でできること
特定技能「介護」を保持していると、どのような業務に携われるでしょうか?受け入れるための条件や受け入れ可能な上限についても解説していきます。
特定技能「介護」の業務
特定技能「介護」で従事可能な業務内容は大きく分けて「身体介護」と「支援業務」の2つです。身体介護とは施設利用者が生活する際に行う行動に対する介護のことで、主に食事や入浴、排せつや服の着脱などが挙げられます。支援業務とは施設利用者のリハビリやトレーニングの補助などをする業務です。つまり、施設内で行うほとんどの業務への従事が可能であるということです。また、特定技能「介護」を取得していると1人での夜勤業務や服薬の介助なども可能であるため、人手不足の事業所において非常に助けになる存在となります。
※しかし、特定技能「介護」では訪問系の介護サービスへの従事はできませんので、注意してください。
特定技能「介護」を受け入れるための条件
特定技能「介護」を受け入れるためには省令などで決められている基準を満たさなければなりません。受け入れ機関は以下の4つに注意して、特定技能「介護」の採用を進めてみてください。
1.4つの基準を守る
(1)外国人と結ぶ雇用契約が適切であること、特定技能外国人の報酬の額や労働時間などが日本人と同等以上など(2)受入れ機関自体が適切であること、法令等を遵守し「禁錮以上の刑に処せられた者」などの欠格事由に該当しないこと、保証金の徴収や違約金契約を締結していないことなど
(3)外国人を支援する体制があること
(4)外国人を支援する計画が適切であること
2.2つの義務を守る
(1)外国人と結んだ雇用契約を確実に履行すること
(2)外国人への支援を適切に実施すること
3.1号特定技能外国人支援計画の作成する
出入国する時、公的な手続きをする時、日本でのトラブルがあった時など合計10種類の項目についての計画を作成しなければいけません。以下が支援計画にて記載する項目です。
(1)事前ガイダンス
(2)出入国する際の送迎
(3)住居確保・生活に必要な契約支援
(4)生活オリエンテーションの実施
(5)公的手続等への同行
(6)日本語学習機会の提供
(7)相談・苦情への対応
(8)日本人との交流促進
(9)転職支援
(10)定期的な面談の実施、行政機関への通報
※1.~3.の内容に関して、受入れ機関・登録支援機関は、出入国在留管理庁長官に対し、各種届出を随時又は定期に行わなければなりません。定期的又は随時の届出を怠ると違反になります。
4.分野別協議会に入る
特定技能外国人の受け入れには特定産業分野ごとの協議会の構成員にならなければなりません。
協議会は特定技能の外国人が適正に就労できる環境づくりを目的にした団体です。
(参考)特定技能ガイドブック
事業所受け入れ人数の上限
特定技能「介護」を用いて受け入れることのできる人数は常勤日本人社員の人数と同じです。技能実習「介護」の場合は常勤社員4人に対して1人の採用しかできませんが、特定技能「介護」の場合は4人の日本人常勤社員に対して4人採用できます。つまり、特定技能「介護」ではより多くの人材を受け入れられます。

特定技能「介護」の受け入れメリット
特定技能「介護」を受け入れることにはどのようなメリットがあるのでしょうか。
今回は3つに分けて解説していきます。
新設の事業所でも雇用できる
特定技能「介護」は他の在留資格と比べて働く上での制約が少ないのが特徴です。人材不足を解決する即戦力としての知識や技能があり、幅広い業務に従事できます。なおかつ、介護福祉士養成学校を卒業しなければならないなどの条件面も厳しくないので多くの人材を対象にできます。
入社してすぐに働ける
特定技能「介護」では入国後や在留資格変更後の講習受講などの義務がないため、在留資格取得から数時間程度で現場にて就労に従事してもらえます。
特定技能「介護」の受け入れデメリット
転職が簡単にできてしまう
特定技能「介護」は実習や資格獲得が目的ではないため、他の在留資格と違い転職が可能です。時間面や金銭面でもコストがかかるので待遇や人間関係などに気を使い、できる限り長く働いてもらえるような環境づくりを心がけましょう。
コストが高くなる可能性がある
特定技能「介護」で採用できる人材は知識や技能を持っている分、賃金が高くなる可能性が高いです。また、上記のような受け入れの条件を守るための支援を自社で内製化せずに外注するとその分さらにコストがかさみます。
特定技能「介護」を受け入れる流れ
では、上記のようなメリット・デメリットを持つ特定技能「介護」を受け入れるためにはどのような手順を踏めばよいのでしょうか。以下に10のステップで解説していきます。
- 技能試験と日本語試験をクリアしている外国人と、特定技能雇用契約を結ぶ。
- 上記1.と並行して、自社が特定技能「介護」の受入機関の要件をクリアしているか確認する。
- 外国人本人に健康診断の受診と、在留資格申請に必要な書類を用意してもらう。
- 1号特定技能外国人支援計画書・会社の必要書類・在留資格の申請書類を準備する。(行政書士に依頼または自社で作成)
- 事前ガイダンスを3時間程度かけて外国人に対して行う
- 雇用開始。※外国人が海外にいる場合は入国手続き(ビザ申請など)→空港等へのお迎え(義務あり)
- ハローワークへの届出、各種福利厚生の手続等を行う
- 外国人に対して支援を実施※生活オリエンテーション、その他支援(自社か登録支援機関で行う)
- 特定技能「介護」の協議会に加入。※4カ月以内
- 義務付けられている「届出」や「定期の面談」を行う

特定技能「介護」を取得する方法
特定技能「介護」を取得している外国人はどのような知識、技能を持っているのでしょうか。特定技能「介護」の取得条件や試験に関して解説します。
取得するための条件
特定技能「介護」を取得するには以下の3つの試験に合格しなければなりません。
- 介護技能評価試験
- 介護日本語評価試験
- 日本語能力試験(JLPT)N4レベル、または国際交流基金日本語基礎テストA2レベル
試験について
・介護技能評価試験
厚生労働省が選定した団体によって運営されている試験です。
介護の基本・こころとからだのしくみ・コミュニケーションの技術・生活支援技術の計4つのカテゴリーから出題されます。学科試験と実技試験があります。
・介護日本語評価試験
こちらの試験も厚生労働省が主催する試験で、介護の現場で使う日本語についての能力を測れます。介護のことば・介護の会話・声かけ、介護の文書の計3つのカテゴリーから出題されます。
・日本語能力試験N4レベル、または国際交流基金日本語基礎テストA2レベル
日本語能力試験とは日本語を母国語としない外国人の日本語能力を測るためのテストです。日本語の文字や語彙・文法についてどの程度知っているか・それらの知識を実際のコミュニケーションでどの程度使えるのかを測ることができます。N4は日常的な場面で、ややゆっくり話される会話なら、内容がほぼ理解できる程度です。国際交流基金日本語基礎テストとは就労目的で日本にやってくる外国人労働者の日本語能力を測るためのテストです。ある程度の日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力があるかどうかを判定します。
試験免除の条件
上記の試験を免除することができるケースは以下のようなケースです。
- 技能実習2号の修了者
- EPA介護福祉士候補者
- 介護福祉士養成課程の修了者
技能実習2号を終了するためには日本の介護分野において3年以上の勤務が必要です。すでにそれ相応の知識、技能があると判断できるため試験を免除できます。また、EPA介護福祉候補者や介護福祉士養成課程の修了者も経歴や実務経験からそれ相応の知識、技能があると認められるため試験を免除できます。

その他の介護の在留資格との比較
在留資格には特定技能「介護」の他に技能実習「介護」などのその他の在留資格が存在します。相違点を比較し、それぞれのメリットデメリットについて解説します。
介護系外国人人材の受け入れには主に4つのルートがあります。外国人を受け入れるという意味では同じですが、それぞれ受け入れる目的や受け入れの流れが違います。

続いてのこちらの表ではそれぞれの制度について詳しくまとめています。比較する際に参考にしてください。以下の表を踏まえて、それぞれのメリットとデメリットについて解説していきます。
特定技能「介護」 | 在留資格「介護」 | 特定活動「EPA介護福祉士」 | 技能実習「介護」 | |
在留期間 | 上限5年 | 無制限 | 4年 | 上限5年 |
必要な資格 | なし | 国家資格「介護福祉士」 | なし ※介護福祉士の資格取得を目指している | なし |
日本語能力 | N4以上 | N2以上 | N5以上 | N4以上 |
受入れ制限 | 常勤介護職員と同じ人数 1:1 | 制限なし | 原則1ヶ国2名以上5名以下 | 常勤介護職員4人に対して受け入れ人数1人 4:1 |
勤務できるサービス | 訪問系サービス不可 | 制限なし | 訪問系サービス不可 | 訪問系サービス不可 |
配置基準の算定 | 雇用してすぐ | 雇用してすぐ | 雇用して6ヶ月 ※日本語能力試験N2以上の場合は雇用後すぐに可能 N2未満は雇用6ヶ月後から | 雇用して6ヶ月 ※日本語能力試験N2以上の場合は雇用後すぐに可能 N2未満は雇用6ヶ月後から |
介護福祉士の資格の有無 | ✖ | 〇 | ✖ | ✖ |
夜勤の可否 | 〇 | 〇 | 雇用から6ヶ月経過後、またはN2以上合格 | 条件付きで可能 |
技能実習「介護」
メリット:採用が容易である
デメリット:業務の習得までに時間がかかる
在留資格「介護」
メリット:介護福祉士養成学校を卒業しているため基礎的な知識がある
日本語の能力が高い
無制限で在留できる
デメリット:在留資格「介護」を持っている人口が少ない
特定活動「EPA介護福祉士」
メリット:日本語力が高い
デメリット:国家資格「介護福祉士」の取得が目的で、研修期間が長い
特定技能「介護」から在留資格「介護」への変更手続き
上記の表からもわかるように在留資格が5年である特定技能「介護」に対して在留資格「介護」は無制限で在留できます。では、どのような手順を踏めば、特定技能「介護」から在留資格「介護」への変更ができるかについて解説していきます。
特定技能「介護」にて3年以上の実務経験を積む
まずは、特定技能「介護」にて3年以上の実務経験を積まなければ次のステップに進めません。この3年間の間に介護に関する知識や技能を高めましょう。
国家試験「介護福祉士」を取得する
この国家資格を取ることによって在留資格「介護」への移行が可能になります。しかし、特定技能「介護」の在留資格は最長5年なので期限が切れないうちに早めに国家試験の取得を進め、在留資格「介護」を取得しましょう。
まとめ
今回は特定技能「介護」について詳しく解説しました。年々人手不足が深刻化する介護業界を救う1つの手として挙げられるこの制度は、業務内容の幅が広く比較的入社後すぐに働けるのが特徴です。介護系の他の在留資格と比較して自社に適した人材獲得方法を探してみてください。
