その給与天引きは違法?特定技能で守るべき雇用ルール

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ヨロワーク編集部

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最近、有名ラーメンチェーン店において、特定技能外国人の給与が不適切な天引きにより支払われなかった事案が報道されました。

この一件は、外国人雇用における労務管理の不備が、いかに重大な法的・経営的リスクに直結するかを浮き彫りにしています。

このような問題の根底には、国籍を問わず適用される労働基準法と、特定技能制度が課す受入れ企業への特有の義務に対する理解不足があります。

本記事では、専門家の視点からこの事案を法的に分析し、企業が遵守すべきルールと、外国人材と長期的に良好な関係を築くための労務管理体制のポイントを解説します。

有名ラーメン店で発覚した「特定技能」給与トラブル

有名ラーメン店で発覚した問題の概要は以下の通りです。

  • 有名ラーメンチェーン店で、「特定技能」の資格を持つミャンマー人女性が勤務。
  • 勤務開始から約1ヵ月後、突然退社を要求される。
  • 働いて2ヵ月目の給与明細では、社会保険料などの法定控除以外に、名目不明の項目で一方的な天引きが行われ、最終的な支払額が0円になっていた。

この一件は、労働者の生活を脅かす深刻な人権問題であると同時に、企業経営を揺るがしかねない複数の法規制に抵触する可能性が極めて高い問題です。

参考:給与天引きで初任給0円 ミャンマー人女性が「三ツ矢堂製麺」を提訴 | 毎日新聞

【法的観点】何が問題だったのか?

このケースには、大きく分けて2つの法的な問題点が潜んでいます。
一つは、国籍を問わずすべての労働者に適用される「労働基準法」の違反。

もう一つは、外国人材を受け入れる上で企業に特別な義務を課す「特定技能制度」のルールの軽視です。それぞれを詳しく見ていきましょう。

問題点①:一方的な「天引き」は違法

日本の労働基準法第24条には、「賃金全額払いの原則」が定められています。
これは、給与は全額を労働者に支払わなければならないという大原則です。

例外として給与から天引き(控除)が認められるのは、以下のケースに限られます。

  1. 所得税や社会保険料などの法令で定められたもの
  2. 労使協定(労働者の過半数で組織する労働組合などとの書面による協定)で明確に定められたもの(例:寮費、親睦会費など)

今回のケースのように、会社が「研修費」「制服代」などの名目で、労働者の同意や労使協定なく一方的に給与から天引きすることは、この「全額払いの原則」に違反する違法行為です。

たとえ労働者に何らかの損害賠償責任があったとしても、それを給与から一方的に相殺することは認められません。

問題点②:「特定技能」ならではのルールと企業の義務

さらに「特定技能」制度には、外国人材を保護するための独自のルールが設けられています。

  • 日本人と同等以上の報酬
    特定技能外国人には、同じ業務に従事する日本人と同等額以上の報酬を支払うことが義務付けられています。不当な天引きは、結果的にこの規定にも抵触する可能性があります。
  • 支援計画の策定・実施義務
    受入れ企業は、特定技能外国人が日本で安定して働き、生活できるよう「支援計画」を策定し、実施する義務があります。突然の退社要求や給与トラブルは、この支援義務を怠っていると見なされる可能性があります。

これらのルールを破った場合、指導や改善命令の対象となるだけでなく、悪質な場合には特定技能外国人の受入れ許可を取り消されるなど、厳しい行政処分が下される可能性があります。

外国人との共生が企業を強くする

法令遵守は、罰則を避けるというネガティブなリスク回避のためだけに行うものではありません。
公正な処遇と手厚いサポートは、外国人材のエンゲージメントと定着率を高めます。

彼らが安心して能力を発揮できる環境を整えることは、生産性の向上に直結し、企業の成長を力強く後押しします。

また、従業員を大切にする企業としての評判は、日本人材の採用においても有利に働くでしょう。

外国人材の採用は、単なる人手不足の穴埋めではなく、多様な価値観を取り入れ、組織を活性化させる絶好の機会なのです。

まとめ

今回の給与未払い問題は、一部の悪質な企業の事例として片付けるべきではありません。
それは、外国人材を「安価で使いやすい労働力」や「いつでも替えのきく人材」と見なす、一部に残る誤った認識が引き起こした悲劇です。

外国人材は「日本人従業員と変わらない」企業の未来を支える大切なパートナーです。
彼らの人権を守り、労働者としての権利を尊重することは、グローバル化が進む現代において企業が果たすべき当然の社会的責任と言えます。

ヨロワーク」は、外国人材と企業が互いに尊重し、共に成長できる関係を築くことを目指しています。
法令を遵守し、彼らが真の仲間として活躍できる環境を整えることこそが、これからの時代を生き抜く企業の戦略の1つとなっていくでしょう。

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